Special Interviewスペシャル対談

株式会社キャラットの企業理念およびロゴのクリエイティブディテクションを務めた、佐藤可士和氏と代表佐野のスペシャル対談が実現。当社の企業理念(コーポレートスローガン、パーパス、ステートメント、プロミス)およびロゴ制作期間の裏側を語って頂きました。
株式会社キャラット代表取締役社長 佐野隆之(以下、佐野):
改めてこの度は、企業理念とロゴ制作をして頂きありがとうございました。今回共通の知人を通してお仕事を受けて頂きましたが、最初にお話をさせていただいた頃から、自分自身を見つめ直す良い機会となりました。とても素晴らしい企業理念とロゴになったと出来上がった今は感じますが、最初に可士和さんと対話を始めたときは、考えや気持ちの整理がついていないこともありました。SAMURAIの事務所の扉がとても重く感じたのをよく覚えています。
でも話し始めると、自分のルーツやアイデンティティ、大切にしていることなど、溢れるように言葉がつながっていきました。
自分が何を求め、何になろうとしているのか?
意味やらしさを追求し、それを一つずつ叶えてきました。

クリエイティブディレクター 佐藤可士和(以下、可士和氏):
ありがとうございました。僕としてはブランディングの際にはいつも対話を通して創業者や経営者の方、今回であれば佐野さんに「なにがやりたいことですか」と伺うのですが、突然そう聞かれても何がしたいかなんて、パッとすぐに答えが出てくる方はなかなかいらっしゃいません。
キャラットが提供する、幸せな時間と写真を提供する仕事は素晴らしいです。佐野さんのポジティブな考えをポジティブに発信できる素晴らしさも、混迷する時代に対して清々しさを感じました。

佐野:対話を重ねることに、可士和さんの著書にもあるように、まさに思考が整理されていき、言葉も整理されていくような感覚がありました。
自分自身が何をしたいのかよりも、どうなりたいのか?
キャラットの目指す未来はどこにあるのか?
心の話から無限宇宙の話、イメージ、概念の探求と哲学的な話になっていきましたね。

可士和氏:普段では意識下に潜ってしまっている思考を、意識の上に出すかという作業は、難しいですよね。
対話を重ね、言葉をアウトプットしていく中で心が軽くなる、それが「思考の整理術」です。

佐野:そうですね、お話をしている中でも、微妙に的を得ない表現をするとスルッと言葉が逃げてしまう感覚があります。その度に視点を変えながら可士和さんと話していくと、だんだん会話のピントが合ってくるようになりました。
全ての答えは自分の中にある。
当たり前のようなことですが、頭と心の考えが揃ってくると、言葉も揃ってきました。
可士和氏:なにか、言葉や考え方が整理されるきっかけはありましたか?

佐野:一番のきっかけは、可士和さんに「写真”でも”いいんじゃないですか?」と言っていただいたことです。キャラットは写真スタジオを運営する会社で、1店のDPEショップからスタートしました。けれど「佐野さん、写真”でも”いいし、他のことでもいいんじゃない?」と言っていただいた。もちろん写真を否定するわけではない。けれど、写真以外のことでお客様を幸せにしてもいいし、その結果キャラットが成長していってもいい。そう思い始めると、本質的になにを大切にするべきかが見えてきました。

可士和氏:それは嬉しいですね。結局、キャラットが今後成長するために、よりよくなることを目指してディスカッションしています。キャラットはもちろん写真スタジオなので、写真を撮ってプリントを渡すのが仕事だけれど、佐野さんに伺うと、写真を撮ることそのものより、お客さんが「楽しかったね、また撮ろうね」と話しながら帰られるのを、端から見ることができるのが、自身の幸せなのだとおっしゃっていて。つまり、写真そのものだけを提供しているだけではないですよね。それなら、写真だけにこだわる必要はないのかもしれないのではと感じました。

佐野:そうですね。「写真”でも”いい」という言葉が出た瞬間に、一気に私は心が解放された気がしました。幅が広がりましたね。おっしゃる通り、お客様を撮影しプリントしてお渡しする、というビジネスですが、それがしたいのかというと、ちょっと違うとも思う。そんな中、写真スタジオ業を全肯定しながら視野を広げられたのが、最も大きな収穫でした。私たちは、写真や撮影する時間を通して、”幸せだと思う時間”、”人と人とのコミュニケーション”を創造する企業でありたいと考えているのだなと。

可士和氏:その広がりが確認できたことが最も重要なことでした。そういう確認ができないと、プロミス等も作ることができません。コミュニケーションというワードも出てこなかったと思います。

一方でこの対話の過程では、「エンターテイメント」というキーワードも出てきましたね。これも、間違ってはいませんが、やはりキャラットが大切にしているのは「コミュニケーション」だと、方向を変えて着地しました。
キャラットの提供するサービスはプロセスに価値があると感じています。
佐野:エンターテイメントという言葉が出たときは、間違ってはいないけれど、ぴったりな言葉でははないと感じて、ちょっと違和感を感じながら持ち帰りました。エンターテイメントとは、誰かが誰かの為に一方向に提供するものではと。私たちキャラットが提供したいのは、人と人、人と社会がつながっていくサービスを提供すること。
単純な楽しみだけを与えているわけではないということ。10年後も30年後も続くコミュニケーションの方法として、例えば大切な記念日の写真がスマートフォンに記憶され続ける、それはエンターテイメントとは違うと考えています。私たちの写真スタジオでは、撮影に来られたその時までの家族や人々のプロセスが、シャッターボタンを押すほんの1/500秒に映し出されます。
写真を生成する「作業」は一瞬だけど、そこに至るまでのストーリーにこそ意味があり、それこそが価値であるのではないでしょうか。
撮影した写真をきっかけに会話が始まったり、写真を起点に、大切な人とのコミュニケーションが始まったりする、そんな時間や価値を提供したいと。この想いは、エンターテイメントという言葉とは少し違うと感じました。

可士和氏:そうですね。一度は、エンターテイメントというキーワードを基に、パーパスを進めていた過程もありました。そこまで大きくずれていない内容ではありましたが、そこから更に「プロミス」を制作する中で、プライオリティをもう一度見直してみようと、当時3番目くらいに位置していた「コミュニケーション」を1番目に持ってくる、としたところで、「やはりコミュニケーションが最も大切だったんじゃないか」と気づいたのです。
その瞬間が、今回の一連の作業の中で、僕としては、先ほどの「写真”でも”」に加えて、「最高にクリエイティブな瞬間」でしたね。
何回も話しているし、コミュニケーションというキーワードは目の前に既にあるのに、それがコアだったと気づいていなかった。コミュニケーションという言葉は広い言葉だから、どの企業でも言おうとすれば言うことができます。しかし、それが1番重要なことなのかと言われると、それは随分違います。
佐野:どんな会社でも、コミュニケーションはありますからね。
「コミュニケーション」「人と人、人と社会」という言葉が可士和さんから出た時、えも言われぬような感動を覚えたのと同時に、異空間にトランスしたような感覚になったのを覚えています。リアルに言葉に「没入」した瞬間でした。

可士和氏:そうですね。コミュニケーションが「1番」となると、ビジネスの上でも非常に重要な価値になります。このプロセスは、文章を作っているのですが、僕の中では概念のデザインなんです。言葉を使ったデザインです。まさに、プライオリティ(優先順位)を変えることで、同じキーワードを使っているのに、訴えるものがガラッと変わったりするわけじゃないですか。「企業概念」そのものを作っているような感覚とも言えました。
でも「コミュニケーション」や「人と人、人と社会」という言葉は、佐野さんが僕に何度も話してくれた言葉でした。
あの瞬間が、今回のCI(コーポレート・アイデンティティ)の開発では、クライマックスというか。劇的な瞬間でした。「出来た!」と思いましたね。ロジックが構築できて、文脈もできて、軸ができた。これでもう、大丈夫だという感じがしました。

佐野:コミュニケーションを創造する企業という言葉は、これまでの流れからも、社内外に自然に伝えることができる。違和感なく、皆の気持ちにも入っていっているのではと感じています。

可士和氏:コミュニケーションという言葉はどんな企業でも言うことができますが、それが本当に一番伝えたい言葉だ、本当にやりたいことなのだと確信できたことがとても重要です。本気で、これで一生やっていく、と表明できたことは本当に大切なことですし、それがクリエイティブの醍醐味です。

佐野:これまでも「CARATT」の「T」が2つ重なっていることで、「CARATT」は世界でただ一つのユニークなネーミングになっています。
これからは写真でも成長していく、コミュニケーションカンパニーとなります。
今はCIも整い、社内で使う言葉も統一されてきて、僕自身が一番すっきりしています。

可士和氏:それはとても嬉しいですね。ブランディングという行為は、企業自体を整えるという行為でもあるので、例えると人の体にも似ています。ものすごく整うと、パフォーマンスも素晴らしく上がったりするのですよね。
結局、概念のデザインが重要なんです。だからこそ、ある程度時間がかかりますね。ちなみに僕的には、かなりいいかたちでのスムーズなプロセスでした。大幅に逆戻りしたりしないで、建設的に進んだイメージです。キャラットのCI構築は、きれいに進んだ、素晴らしいプロジェクトだと思います。

Postscript

2021年6月からおよそ1年に渡る新CI制作プロジェクトでは、自分がどう生きてきたのか?なぜこの仕事をしているのか?どこへ向かいどうなりたいのか?
無数の「?」が溢れ出し、取り止めもなく言葉が流れていく。話せば話すほど言葉が逃げていく。
出口の見えない長い時間の後、「写真でもいい」という言葉が紡ぎ出された。
その言葉で自分自身がさらに前に進む力を得たように思う。
写真を軸にして、惑星のようにいろんな事業や、ひらめき、やりたいfeelを散りばめていこう。やがてそれらを繋ぎ、互いに成長し合うことで本当の意味で「写真でもいい」に変化していく。そしてその変化は大きなうねりとなり、世界を変え、時代を変えていく。

「心はずむ体験を通して 人生を彩り 社会を幸せにするコミュニケーションを創造します」

これがこれからキャラットの進む私たちの志(パーパス)だ。
CI制作プロジェクトの全てが終わりを迎えたとき、SAMURAIの扉は存在さえなく感じた。