佐藤可士和氏の特別インタビューが実現。佐藤可士和氏が捉える現代のコミュニケーション、コミュニケーションのプロフェッショナルである佐藤可士和氏の役割について伺いました。
キャラットは「コミュニケーションを創造する企業である」という概念をデザインしていきましたが、そもそも人間社会は、コミュニケーションによって成り立っています。
そのような中で、企業や個人が抱える問題や課題は、コミュニケーションに関わることが非常に多いです。全てのことが正確に伝えられれば問題は起こりにくいと思うのですが、なかなかそうはいきません。時代的に見てもインターネット以降、個人がこれだけ世界に情報発信できるようになりました。写真、動画、音声の情報をここまで広く多くの人々がやりとりしているのは初めての経験です。これに伴い、コミュニケーションも当然複雑になってきています。
インターネット以前はマスメディアを使わないと社会に広く伝えられませんでした。それが今では、個人で発信が可能となり、簡単に、日本中、世界中の人へ情報を発信、共有できるようになりました。
このことによる大きな変化として、例えばたった一人の人間が世の中を大きく動かす可能性が高くなりました。個人のアイデンティティが世界に影響を与える可能性が本当に出てきたのです。それは発言だけではなく、ヴィジュアルも同様です。キャラットも写真を扱いますが、それこそ1枚の写真が世界を変える可能性があるのです。
テクノロジーの進化も大きく関係してします。写真について言えば、以前は写真を撮っても、フィルムを現像しなければならず、すぐには見られないものでした。それが今では、皆スマートフォンで毎日のように写真を撮ります。他の人の写真もすぐに見ることができます。それまでフォトグラファーの「特殊技術」だったことが、テクノロジーによって誰しもが「なんとなくいい感じに撮れてしまう」「瞬時に加工できる」ようになりました。動画も同様です、以前は撮影・編集すること自体も大変でした。
スピード感も変わりましたね。僕が仕事を始めた頃は、ケータイもメールもなく固定電話とFAXで仕事をしていました。今では信じられないですね。
環境が変わって、僕の仕事のやり方も、大きく変わりました。クリエイティブを発信するメディア環境が全く変わったので、以前とは比べものにならないくらい多様なコミュニケーションが生まれています。
しかし、クリエイティブそのものの本質は変わりません。僕の仕事は、コミュニケーションがもっとうまくいくようにする、というものです。クリエイティブの力を使って、コミュニケーションの流れを良くしているのです。うまく伝わっていないもの、回路が絡まってしまっているものを、ほどいて、流れを良くする。いわゆるコミュニケーションのデザインです。
そのためには、クライアントである企業が、経営者がまず何を伝えたいのか、やりたいのか、クライアントの想いを正確に把握する。それが一番重要で、そこから始まります。
「何をやりたいのか、何を伝えたいのか」それを明確に答えるのは非常に難しいことです。多くの活動の中から本質的なことを、対話によって整理し、抽出していくのです。
僕自身はクリエイターなので、「クリエイティブの力を使って、社会の役に立ちたい」と思っています。以前、「企業は僕にとってメディアである」と言ったことがありますが、僕は企業を通して、その企業と一緒になって、社会に貢献することをお手伝いしたいと考えています。
いまより良くしたい、より良い社会をつくりたいと考えていれば、必ず課題はあるはずです。そのコミュニケーションが社会とうまくとれるように流れを作るのが僕の役割だと思っています。
より良い社会、社会にとってより良いことを、クリエイティブの力を使って実現していくことが、僕のやりたいことなので、キャラットが、社会にとって良いことをしてくれるのが、僕にとって、とても嬉しいことなのです。